<特別>

あう…

この状態をどうしよう…

先輩のあとをぽてぽてとついてってるのだけど…

無言。

はうぅぅぅぅぅぅ

無言。

何を話せばいいのぉぉぉ。

「ふにゃっ」

何か柔らかい物にぶつかった。

な。なに?

よく見るとうちの男子の制服だぁ…

って言う事は…

顔を見上げると先輩が振り向いてびっくりしたかおしている。

うわぁぁぁ・・・

下を向いたまま歩いていたから…

思いっきり先輩にぶつかっていた(汗)

「す、すみませんっ!」

慌てて一歩下がる。

で、何かにつまずいてバランスを崩すあたし…

「にゃぁっ!?」

思わず目をつぶっちゃった。

「あ、危ない!」

先輩の声が聞こえて、何かに引っ張られた。

なんとかこけずに済んだのだけど…

妙な感触が…

恐る恐る目を開ける。

また目の前に見なれたシャツとネクタイ…

っ!!

「大丈夫ですか?」

先輩は心配そうに声をかけてくれた。

「だ、大丈夫です!!す、すいません。」

頭を下げつつ一歩下がる…

「このバス停で大丈夫ですか?」

バス停の時刻表を指しつつ先輩が言った。

「は、はい!」

時刻表もよく見ないまま答えてしまった…

だって、ものすごく顔が熱くて…情けなくって…

泣き出しそうになるのを必死にこらえていた。

「本当に大丈夫ですか?」

先輩が心配そうに聞く。

「は、はい!」

首を軽く振って顔を上げたあたしは時刻表を見た。

…家の方向行きのバス、もうないや…

どうしよう…

取り合えず、バスターミナルまで出るしかないのかな…

不安そうな気持ちが顔に出ちゃったのか、先輩が話しかける。

「バスターミナルまで、私も行くのですが、ゆかさんもですか?」

「え、あ…はい。」

「そうですか。では、この52分のバスですね。」

にっこり微笑んでくれる。

あれ…でも…

「で、でも。先輩は帰る途中だったんじゃ…」

「いえ、歩いても、バスでもそう変わりませんから。」

…でも。

言葉が続かない…

バスがくるまでまた無言になっちゃった…

 

バスがきた。

「気をつけて。」

先輩が心配そうに声をかける。

「は、はい」

バスは通勤ラッシュの終わり頃からか一つしかあいてなかった。

…どうしよう。

立ってよう。

「大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。」

バスがゆれるたびに先輩が声をかけてくれた。

バスがバスターミナルにつく。

「ありがとうございました。あ、あのここからは大丈夫ですから…」

先輩にお礼を言って頭を下げる。

「いえいえ。大丈夫ですか?本当に。」

あたりはすっかり真っ暗になってた。

でも、バスターミナルからならバスは出てるはず。

「ほ、本当に大丈夫です。」

「そうですか、では気をつけて。」

「は、はい。ありがとうございました。」

あたしがもう一回いったから、先輩も何も言わなかった。

ちょこんと頭を下げて、あたしは目的のバスが出るバス停に向った。

なんだろ…

ものすごく変な感じが、消えない。

いやな感じじゃなくて…

バス停に立ちながら頭の中でそんな事がぐるぐると回ってた…

「どうしたの?!結花。」

家に帰るとお母さんが驚いた声をあげている。

「へ?あ、ただいま。お母さん…」

先輩からわかれてバスを待っている間考えてて、バスの中でも降りてからも考えてたのだけど…

結局わからなかった。

この変な気持ち…

それと同時に顔の熱さはどんどんひどくなっていって…

家に着く頃にはすっかりのぼせ状態になっていた。

「顔真っ赤よ?なにかあったの?」

お母さんが心配そうに聞いてくる。

「う…ん、大丈夫。今日はもう寝る…」

「本当に?ご飯は?」

「・・いらない。」

お母さんの心配そうな声を背にふらふらしながら自分の部屋へと向った。

…これが知恵熱で2日も学校を休む事になるは思わなかったけど…

「結花ちゃん、なにか無理に考え事したでしょう」と、掛かり付けの病院の先生に笑われた。

…まさか特定の外国人の先輩の前で顔が熱くなって、変な気持ちなるのがどうしてかとは聞けなかった。

 

知恵熱がようやく下がって、学校に行き始めて1週間後。

「結花、最近ちょうしええんとちゃう?」

「へ?なんで?」

亜都ちゃんがにこにこといった。

「ここんとこ、体調もええやん♪」

亜都ちゃんはあたしが知恵熱で休んでいた2日間、心配そうに毎日ノートを持ってきてくれていた。

「そうだね、すっかり熱も下がってるし。」

「心配したんやでぇ♪でも、なんで?ねつだしたん?」

ぎく…

「う、うんとなんか薄着をしたせいだって・・先生が言っていたよ。」

しどろもどろに答える。

「?でも、休む前までずっと長袖やったないの?」

鋭い…亜都ちゃん。

「そうかな?」

「うん…ま、結花が元通りになったからええことやん♪」

亜都ちゃんがうれしそうに抱きついた。

「ありがとう♪」

「今日も部活やの?」

「うん。」

「でも、なんで結花。結花だけうちらの教室で一人でやってるん?」

「えっ。」

あたしは休み開けからほとんど部室にいってない。

さすがに部活を休むのは嫌だったから顧問の先生と中等部の部長に相談して、自分の教室で一人でレッスンする事にしていた。

理由は先生たちには「自分の弱点を直したいから」、といってある。

でも…本当はちょっと違う…

「あたしへただからみんなのレベルにまで、行くように自主レッスンしているの。」

本当の理由は恥かしくて亜都ちゃんにも相談できない…

「そうなんやぁ、頑張れ♪」

ごめんね…亜都ちゃん

「うん」

 

放課後。

一人教室で練習をあたしはしてた。

部室にいるとどうしても落ちつかない…

何でだかわからないままだけど、一つだけわかったことがある。

…それは。

「こんにちは。」

突然声をかけられた。

この声…まさか。

振りかえるとグスタフ先輩がいた。

「あ。こ、こんにちわは。」

挨拶が精一杯、また顔が熱くなっていく…

「一人で練習ですか?」

「は、はい。私、あんまり上手くないから、みんなの迷惑になると思って…」

あたしは決まりきった理由を話した。

でも、本当の理由は違う。

先輩にあたしの下手な音を聞いてほしくなかったから…

休み開けに先輩のホルンの音を聞いた。

すごく、すごく上手かった…

だから、聞いてほしくなかった。

今まで上手ないろいろな先輩の音を聞いたけど、そんな事を思ったのははじめてだった。

それに、まだわからないこの変な気持ちと顔の熱さがわからないから。

意識して先輩を避けるようにしていた。

…あれ?

悲しいわけではなのに…

涙が出てくる。

「うーん。誰だって最初は上手くはありませんよ。」

「で、でも、私いくら練習してもあんまり上手くならなくて…せっかく前先輩に教えてもらったのに…」

声が、震える。

なんだろう…涙が止まらない。

泣いちゃだめだよ!あたし!!

「あ、泣かないでください。」

先輩のその一言が引き金になって、あたしの涙腺はすっかり緩んで…

「ふぇ…えっ、っ…」

そのままあたしは泣き出してしまった。

どれくらい時間が経ったんだろ。

あたしの涙腺も底をついたらしく、収まりかけていた。

しゃっくりと深呼吸が繰り返し。

「落ちつきましたか?」

やさしく、落ちついた声で先輩が尋ねた。

先輩はあたしが泣いている間ずっと心配そうに見ていた。

うにゃ…恥ずかしいな。

「は、はい。す、すみません。」

「いいえ。いいんですよ。」

ポケットからハンカチを取り出すと涙をふいた。

ふにゃ…

なにやってるんだろ。あたし。

なんで、こんなに変なんだろ…

「それじゃ、練習をしましょう。」

え、え?

びっくりして先輩を見るとゆっくりといった。

「誰かといっしょに練習した方が一人でやるより上達しますよ。」

「で、でも、私下手だから…」

これ以上先輩に聞いてほしくない…

先輩は断ろうとするあたしの言葉をさえぎった。

「そんな事を言ってはいけません。みんな練習して上手くなるんです。

 誰だって苦労して時間を掛けて上手くなるんですよ。

 ゆかさんだって頑張ればきっと上手くなりますよ。

 まだ上手くなる時がきていないだけです。

 今の自分はまだ発展途上なんだって思って、頑張るのです。」

先輩が一気に話した。

ほぇ…っと聞いていたあたしの中でなにかが変わった。

上手くなりたい。

先輩のように。

あたしは楽器を持ち先輩を見た。

不思議と顔はもう熱くない…

「よし、それじゃここからやってみましょう。」

先輩が楽譜を指差した。

「は、はい。」

そして時間は過ぎて。

「もうこんな時間ですね。そろそろ終わりにしましょう。」

「は、はい。」

あたしは楽器を片付け始めた。

「あ、楽器の手入れをもっとしっかりやった方がいいですよ。さっき涙でぬれていましたから。」

あたしはこっくりとうなずいた。

はにゃ…すっかり忘れていた。

思いっきりさっき涙を楽器にかけてた…

家にもって帰ってやろう。

先輩がなにか思い出したように慌て始めた。

「それじゃ、私は帰りますね。ゆかさん。」

先輩が教室を出て行こうとしている。

「あ、あのっ!」

珍しく、ちゃんと声が出た。

先輩が振り向く。

「きょ、今日はありがとうございましたっ!」

い、言えた♪

「それでは、さようなら。気をつけて帰ってくださいね。」

「は、はい!さようなら、グスタフ先輩。」

あたしが深深とお辞儀を下のを見て先輩は教室を出て行った。

「うにゃ…」

それを見届けるとあたしは力が抜けたようにしゃがみこんだ。

「亜都ちゃんの言うとうりだぁ…」

10日前に亜都ちゃんがいっていた言葉を思い出してた。

『ダグラス先輩は特別なんよ。』

特別…そうかもしてない。

そう考えればつじつまが合うことがいっぱいあるもの。

「グスタフ先輩は特別だったんだぁ…」

しゃがみこみながらほぇーっと考えていた。

「でも…なんで特別なんだろ?」

ふと、そんな疑問が浮かんだ。

うーん…

はっ、きづくとまたまわりは薄暗くなり始めていた。

「いっけない!」

あたしは慌てて片付けて学校を後にした。

 


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