＜おもい＞

オーストリアに着て４日経った。
「疲れたぁ〜」
あたしと亜都ちゃんはそう言って二人でベットに突っ伏した。
「しかし、でかい家やなぁ〜」
「そうだね〜」
近いと言われた先輩の家は車で２時間も掛かった郊外にあった。
先輩の妹のエーディトさんから客間に案内されたのだけど。
広い…広い。亜都ちゃんのうちも広かったけどそれ以上。
客間に専用のバスとトイレがある…この部屋だけでうちのリビングぐらいの広さだし。
こんな部屋が１０以上はある・・・確実に。先輩のうちって…何やってるんだろ？
怖くてこの部屋とリビングとダイニングしか行ってないけど。間違いなく迷子になる自信あったし。
着いた翌日はちょっと時差ぼけにあったからゆっくり休んだのだけど。
そのあとは、先輩たちはいろんなところに連れてってくれた。
オーストリアでポピュラーな観光地から観光客はなかなか行かないところまで。
今日も朝から出かけて帰ってきたところ…
時計は３時すぎを指してる。
「結花、うちのどかわいたから何か貰いに行こうと思うやけど。」
亜都ちゃんが起きあがりながら言った。
「あたしはいいよ。ちょっと休んでる。」
「具合悪いん？」
心配そうに見てる。
「違うよぉ、疲れただけ。」
あたしは体を起こして亜都ちゃんに言った。
「そっか♪結花にも何か貰ってくるさかい♪」
「うん、お願いね。」
亜都ちゃんが部屋を出たあと、あたしはまたベットに横になった。
天井からつるされてる布を見ながらを見ながらボーとしてた。
ベランダに続く窓が開いてて、そよ風が部屋に入りこんでた。
それがとても気持ちよかった。

到着して先輩の家に行く途中、運転手らしい人と先輩は何か話してた。
運転手さんが時折うれしそうに笑ってた。
あと、時折あたしの事を見てたきがするのだけど…
先輩も…
何回か目が合った。
でも、ドイツ語だから何を話してたかわからないし。
何話してたんだろうなぁ…
ちょっと気になるんだよね。
あたしにはそれを先輩に聞く権利はないし…
気になるなぁ…
それにしても、風が気持ちいいなぁ…
疲れてるってのもあったんだと思う。
あたしはベットの上でうとうとしてきて、そのまま寝てしまった。

夢を見た。
綺麗な女の人がいた。
顔が全然見えないのになぜか綺麗な人って事はわかった。
とても嬉しそうにしてる…
隣に誰かいる…
男の人だ…
あたしは知ってる…この男の人。
…先輩？
先輩が穏やかな笑顔で女の人を見てる…
それを見てたら…なんだろ？涙が出てきた。
二人はとっても幸せそうなのに…
なんで涙が出てくるんだろ。
二人が遠くに行こうとしてる。
「先輩待って！」
あたしは先輩にそう言ってた。
なぜだかわからないけど、呼び止めなきゃ行けない気がして。
先輩がどこかに行っちゃいそうで。
「行かないで…」
あたしは追いつこうとするのだけど足が動かない。
「行かないで…」
あたしは先輩と女の人が見えなくなるのを泣きながらただ見てるしかなかった…

「…結花さん？」
あたしの名前を呼ぶ声で目がさめた。
先輩が心配そうに覗きこんでいた。
でも、視界がぼやけてる…
あたし、寝ながら泣いてた…？
「結花さん？どこか調子でも悪いのですか？」
「え、そんな事ないです。」
あたしは起きあがりながら涙をぬぐった。
まさかあんな夢みてたなんて言えない…
「ちょっと、疲れて寝ちゃっただけです。」
「…ならいいのですが。飲み物を持ってきたのですが、どうしますか？」
サイドテーブルにグラスが２つあった。
「あ、いただきます。」
あたしは飲み物を受け取り、一口飲む。
残った一つは先輩が飲んでた。
「亜都ちゃんはどうしたんですか？」
ふと、亜都ちゃんの事を思い出した。
「亜都さんはエーディトと話し込んでしまってますよ。ですから私が変わりに持ってきたんです。」
少し困ったような表情をしながら答えてくれた。
「二人ともお喋り好きですもんね。」
にこにこしながらあたしは飲んだ。
「冷たくてすごくおいしいです。」
あたしはいつもより明るくしようと努めてた。
夢を見て泣いてしまった事にふれてほしくないから。
恥ずかしいと言うのもあるのだけど…
何か別の感情もあったから。
うまく表現できない感情…
先輩と今日行った所の事など雑談をしてた。
でも、時折先輩がいいたそうにしてるのはわかってた。
あたしはなんとかそれを避けつづけてたのだけど。
…沈黙になっちゃった。
あたしは空になったグラスを握り締めたままそのグラスを見てた。
このままじゃ…
「あ、亜都ちゃんたちのところに行きませんか？先輩。」
あたしはもう話題がなくなったのでそう切り出した。
「そうですね。」
先輩が立ちあがった。
あたしはグラスを持って部屋を出て行く先輩のあとに着いて行った。