<なぜか逃走?>
「お腹へったぁ…」
「あとちゃん、それ。もう今日で何回目?」
2時間目が終わった教室。
「だって、結花。うち、今日朝ご飯食べてないやで。」
半べそ状態の亜都ちゃん。
「なんで?」
「昨日買うた、おサルたちの場所考えていたら寝るのおそうなって、寝坊したんや。」
「じゃあ、これ食べる?」
その声に机に突っ伏していた亜都ちゃんがばっと顔を上げた。
「何?何?」
「お昼に食べてもらおうと思ったんだけど…」
バックのなかからアルミホイルに包まれた物を出した。
「なんやの?」
アルミホイルをはずしながら聞く亜都ちゃん。
「シフォンケーキ。紅茶の。昨日作ったの。あ、これ生クリームだよ。」
ちっちゃいカップもバックから出した。
「うきっ♪でも、昨日って、あのあと?えらいとうとつやねぇ」
「あう…それは。」
しどろもどろになりつつも昨日の事を話した。
「ふぅん、もぐ、えらい変化やねぇ、もぐ。」
ケーキをほうばりながら亜都ちゃんがいった。
「え、変化って?」
「もぐ、だから。もぐ、もぐ…」
「亜都ちゃん…食べ終わって方でいいよ。」
「ほんま?ごめんなぁ、もぐ。」
1分後…
「つまりや、結花が外人苦手やって事はよー知ってるうちが聞いた限りでは、えらい変化やと思うねん。」
「う?わかんない…」
「だから、ダグラス先輩は特別なんよ。」
「特別?」
ますますわかんない…
混乱してきたあたしを見た亜都ちゃんはぽんっとあたしの肩に手を置いた。
「今の結花にはわからんことやから…、気にせんでいいわ。」
気になるけど…
そうゆうもんなのかな?
「う…ん。」
「そうそう♪多分ダグラス先輩も気づいてへんやろうし。」
????
「亜都ちゃん、グスタフ先輩だよぉ」
「ええやん♪」
…そうなのかな?
「で、これ。ちゃんとダグラス先輩用を持ってきとるんやろ?」
「うん。でも、また特別クラス行くのは…」
「部活で渡せばええんとちゃう?」
部活…
すっかり忘れていた。
「そっか。そうしようかな?」
「そうしいな♪このケーキめっちゃおいしかったで♪」
「ありがと♪」
よし、部活のとき渡そう。
でも、喜んでくれるかなぁ…
放課後。
部室をきょろきょろと見ると…
いた!
まだちらほらとしかいない部室に入り口から見てもすぐわかる、ブロンズの髪。
グスタフ先輩だ。
ここから見ると後ろ向きで座っている。
バックのなかのケーキを確認する。
今回も淡いブルーにした。
よ、よし、いくぞ!
気合を一ついれて先輩のほうに歩き出した。
近づいて行くほど緊張してきて、顔が熱くなっていく…
先輩は楽器をいじっていてあたしに気づいていないみたい。
はぁ〜っと一つ、小さな深呼吸をした。
「あ、あの。グスタフ先輩…」
精一杯の声を出した。
でもかなりちっちゃい声…
他の部員の声とかでかき消されちゃって気づかないみたい。
もう一回!
「グスタフ先輩!」
やっと気づいてくれたみたい。
「はい?」
先輩が振り向いたとたん、またさらに顔が熱くなる。
「あ、ゆかさん」
また下を向いちゃう、あたし。
「こんにちわは」
やさしく、穏やかな声。
「こ、こんにちは。き、昨日はありがとうございました。」
「いえいえ。無事に帰れましたか?」
あたしはぶんぶんと首を縦に振る。
「それはよかった。」
「あ、あのそれで…これっ!!」
あたしはかばんに手を突っ込んで、ケーキを取り出した。
「昨日の…お、お礼です。」
顔を上げて、先輩の前に差し出す。
先輩座ってるからほとんど目線がいっしょ。
また下を向く。
「ありがとう。昨日の今日なのに早いですね。」
先輩はそういって受け取ってくれた。
確かにそうなんだけど…
あのあと家に帰ってから何となく、お菓子の本に手が伸びて…
気がついたらつくってたんだもの。
自分でも驚いてる。
「今回もクッキーですか?」
「あ、こ、これ。紅茶のシフォンケーキで、です。」
落ち付いて話そうとするんだけど…
どもっちゃうよぉぉぉぉ
「お、お口に合わないかもしれませんがどうぞ!!」
そういって、深深と頭を下げるとドアに向って一直線。
「あ…」
先輩はまだなにかいいたげだったけど、あたしはドアに向って早歩きで向ってた。
部活…
ちょっと頭の片隅によぎったけど。
今はわけのわからないパニックで…
相変わらず顔は熱いし。
こんな状態じゃどうしようもないよぉ。
とうとうあたしは、はじめて部活をサボってしまった…