<ゆっくりと>

どれくらい歩いたかな?
まもなく先輩の家に着くのかな?
先輩はずっと黙ったままだった。
あたしが言わなくちゃ…
言わなくちゃ…
そう!はっきりつたえなきゃ!
先輩の家が見えてきたときあたしは立ち止まった。
「せ、先輩…」
消えそうな声だった。
これでも精一杯大きい声のつもりだった。
でも、薄暗くなってきた帰り道で先輩の耳に届いた。
「はい?」
立ち止まって振り向いた。
薄暗いから先輩の顔がよく見えない。
それがよかったのかも。
あたしはゆっくり話す。
「あ、あの。今日はすみませんでした…」
まずは謝った。
「それは・・・」
「あたしがちゃんとはっきりしないといけない事なんですよね。」
先輩が言いかけたけどあたしはそれをさえぎった。
「先輩のお話聞いて、正直あたしは困りました。あたしはエリーさんのようになれるのかって。エリーさんのように先輩のこと好きでいられるかって。
で、でもそれって違うんですよね?あ、あたしはあたしなりの思いで先輩のこと好きでいれればいいって…」
先輩の表情は見えない。
でも、あたしはそのまま喋りつづけた。
反応を気にしていたらちゃんと離せないような不安があったから。
「あ、あたしは先輩とお話ししたり、顔を会わせる事だけでとっても嬉しいです。家庭教師のことだって、部活で会うことだって。今回のことだって嬉しくて出発まで眠れませんでした。
で、でも告白するつもりありませんでした。先輩の迷惑になったらと思って・・・そしたら、先輩も同じこと考えてたんですね。」
あたしは一気に話して一つ深呼吸をした。
「あたしも、先輩の事が好きです。先輩があたしの事すきって言ってくれてすごくすごく嬉しいです。」
そう言い終わってあたしはにっこり笑った。
すっかり暗いから先輩もあたしの事見えないと思うけど。
ちゃんと伝えられたかわからないけど・・・
気持ちが先走っちゃったから・・・
でも、一生懸命言ったもの。
これでいいの。
「結花さん。」
先輩があたしを呼んだ。
「はい。」
あたしは先輩が何を言うのか緊張しながら待っていてた。
でも、それは管理人さんの先輩を呼ぶ声でさえぎられた。
さすがに管理人さんも心配だったのか探しにきてくれたみたい。
先輩を見つけて何かお話してる。
「結花さん、家に戻りましょう。みんな心配しているようです。」
「あ、はい。」
あたしは先輩と管理人さんの後ろについてった。
「結花さん。」
「はい?」
まもなく家に入るというとこで先輩が呼びとめた。
先輩は近づいてきて少し屈んだと思ったら、
「夕食の後、時間をいただけますか?」
耳元で小さな声で言われた。
「え、え…」
そんな事始めてだったから驚いた。
「だめですか?」
先輩は少し困ったような表情。
「い、いえ。わかりました。」
あたしは慌てて返事をした。
顔が熱い…
「それじゃあ…」
先輩がうれしそうな顔をした。
先輩はそのまま家に入って亜都ちゃんたちに何か質問攻めにあってるようだった。
あたしは耳を手で押さえて顔を真っ赤にして立ち尽くしてた。 
湯気が見えるんじゃないのかな…?

夕食中ずっと一通り先輩に質問しまくり、見事にかわされて核心をつけなかった亜都ちゃんは案の定あたしに詰め寄ってきていた。
「で、先輩に告白されたん?」
あたしはできるだけのことを説明した。
さすがにエリーさんとのことは話さなかったけど。
病室ではなくて公園という事にしておいて・・・
「うん・・・」
「結花はそれをOKしたんやろ?もちろん。」
亜都ちゃんがずずっとあたしに近づいて聞いてくる。
「うん・・・」
あたしが顔を真っ赤にしながらうなずくと満面の笑みを浮かべて抱きついてきた。 「むぎゅぅ〜おめでとさん!結花。オーストリアまできたかいがあったなぁ♪」
「うん。ありがとう亜都ちゃん。」
きょとんとした表情の亜都ちゃん。
「何でうち、お礼言われんの?」
「だって、亜都ちゃんが先輩にオーストリアにくる話もちかけなかればこうはならなかったと思うよ?」
「なにゆうてるん。あれは先輩が結花をここにつれてくるための口実にきまっとるやん!うちはダシにつこわれたん!ダシ!」
「え、ええええ??!」
じゃ、じゃあ最初から告白するためにあたしを誘ったってこと?!
うわわ・・・顔が真っ赤になるのもわかるようになってきた。
「ほんまに、ゆかは先輩も結花のこと好意を持ってたって自覚なかったんやなぁ。ここまで鈍いとあとで先輩苦労すんでぇ」
ちょっぴりあきれ気味に亜都ちゃんがいった。
「そこまでいわなくても。」
「冗談やって。そういうとこも先輩惚れたんとちゃうか?」
「もー(>_<)」
時計を見ると先輩が言っていた時間をすぎてる。
「亜都ちゃん、ごめん。あの・・・」
なんていっていいか迷ってるあたしを見て亜都ちゃんがにんまりと笑った。
「先輩に呼び出されてるんやろ?いってきー」
「うん、いってくるね。」
ドアをあけようとしたとき。
「襲われんようにな〜♪」
「襲われるってどういう意味!?先輩そんな人じゃないもん!」
「じょうだんやって。」
いいように遊ばれた気がする・・・

先輩の部屋の前まで着いて深呼吸を何回しただろう。
もう3分近くノックできずに立ち尽くしてた。
困った・・・困ったよぉ・・・
このまま立ち尽くしているわけにもいかずノックする。
「先輩?結花です。」
いないのかな?と思ったら先輩の声が聞こえて 「結花さん、どうぞ。」
そういって部屋の中に招き入れてくれた。
「遅くなってごめんなさい。亜都ちゃんが・・・。」
言い訳してもどうしようもないのにな・・・あたし。 「いいんですよ。私が呼んだだけですから。」
先輩は優しくそう言ってあたしに椅子に座るように進めてくれた。
あたしが座るのを確認したように先輩が向かいの椅子に座る。
「紅茶でも飲みますか?まだポットに少し残ってますから。」
「あ、はい・・。」
これから何を言われるのか頭のなかでパニック寸前だった。
告白されて、あたしも告白したわけだけど・・・どこか不確定な気持ちだった。
先輩が好きなことには変わりないのに。 「どうぞ。」
入れ終わって差し出されたカップを受け取る。
「結花さん。」
「はい?」
あたしは飲みかけのカップから口を離して返事をする。
「さっき、私が言った言葉は本当です。私はエリーよりも結花さんの方がずっと好きなんです。」
ゆっくりとはっきりと先輩が言葉をつづってる。
「は、はい・・。」
あたしはそれを聞きながら顔を真っ赤にさせていた。
まさかこんなに『好き』って言ってもらえるとは思っていなかったし。
「それに、私は結花さんをエリーの代わりだなんて思ってません。結花さんはエリーとは違うんです。私にはありのままの結花さんが必要というか・・・、そういう結花さんが好きなんです。」
ありのままのあたし?
あたしらしい先輩への思い・・・
「だから・・・。」
先輩が立ち上がる。
あたしの後ろに回ったかな?と思ったら・・・抱きしめられた!!
は、はうぅぅぅぅぅ!?
頭の中が完全にショートしそう。
「私と一緒にいてください。それが私の願いです。」
「は、はい。私、先輩と一緒にいます。ずっと・・・。」
何とかあたしは先輩に自分の気持ちを伝えることができた。
これからも、ずっと・・・


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